1. 国を越えることで変わるのは、言語だけではない
慣れ親しんだ市場で情報を探していると、「検索する」という行為そのものにも経験が必要であることを、普段はあまり意識しません。
ある商品が一般に何と呼ばれているのか。
消費者はどのような言葉でその商品を表現するのか。
販売者はどのような略称を使うのか。
どのプラットフォームに関連情報が現れやすいのか。
検索結果の中で、どのような表現に注意を向けるべきなのか。
こうした判断は、慣れた市場ではいつの間にか一つの習慣になっています。
しかし、調査対象が国を越えると、それまで自然に使ってきた方法がそのまま機能するとは限りません。
同じ商品でも、市場が変われば名称、分類方法、業界で使われる表現が異なることがあります。
同じ事業活動であっても、プラットフォームのルール、消費習慣、商慣行の違いによって、まったく異なる言葉で表現される場合があります。
そのため、日本市場で有効だったキーワードを正確に中国語へ翻訳したとしても、それが中国市場でも有効な検索語になるとは限りません。
逆の場合も同じです。
2. 翻訳するのは言葉。調査で切り替えるのは視点。
クロスボーダー調査では、キーワード自体の翻訳は間違っていないのに、検索結果がなかなか本当の対象に近づかないことがあります。
問題は、必ずしも語学力にあるわけではありません。
調査する側が、もとの市場で身につけた考え方や前提を、そのまま別の市場に当てはめていることがあります。
たとえば、同じ商品でも、
正式な文書で使われる名称、
消費者が日常的に使う呼び方、
ECプラットフォームの商品分類上の名称、
販売者が検索流入を得るために使うキーワードは、
それぞれ異なる場合があります。
侵害が疑われる商品では、ブランド名の直接的な使用を避け、型番、外観上の特徴、用途、対象商品、通称、その他の商業的な表現を使って流通させることもあります。
このような場合、もとのキーワードの翻訳をさらに細かく修正し続けても、問題が解決するとは限りません。
改めて考えるべきなのは、
対象市場では、この商品をどのように表現するのか
プラットフォームは、関連情報をどのように整理しているのか
販売者は、どのような消費者に商品を見つけてもらいたいのか
ブランド名を直接使えない場合、どのような表現に置き換える可能性があるのか
という点です。
すべての検索には、暗黙の前提があります。
「対象は、こういう形で現れるはずだ」という前提です。
検索を続けても対象に近づけないのであれば、その前提自体を見直す必要があるかもしれません。
3. 有効な検索方法は、調査の中で少しずつ形成される
調査を始める時点で、分かっていることはごく限られていることが少なくありません。
一つの商品ページ。
一枚の画像。
一つのアカウント。
一つの連絡先。
場合によっては、確実とは言えない一つのキーワードだけが出発点になることもあります。
しかし、新しい手がかりが見つかれば、検索方法も変わります。
新しく見つかった商品名が、次のキーワードになることがあります。
一つの連絡先から、別のプラットフォームが見つかることがあります。
一つの事業者名から、新しい店舗につながることがあります。
何気ない商品説明の表現から、同種の販売者が共通して使う言葉が見えてくる場合もあります。
したがって、クロスボーダー調査は、
キーワード → 検索結果
という一度きりの作業ではありません。
むしろ、
既存情報 → 試行 → 新たな手がかり → 認識の修正 → 新しい検索経路 → 再検証
という流れに近いものです。
調査の道筋は、得られた情報からのフィードバックを受けながら、少しずつ形になっていきます。
4. 対象市場の情報環境に入り直す
有効なクロスボーダー調査とは、もとの市場の外側から言葉だけを翻訳して検索することではありません。
できる限り対象市場そのものの情報環境に入り、その市場で商品がどのように表現され、プラットフォームがどのように情報を見せ、事業者がどのような痕跡を残しているのかを理解する必要があります。
クロスボーダー調査で最初に越えるべきものは、言葉の壁だけではありません。
それまで自分が持っていた考え方や前提でもあります。
翻訳は、言葉を理解するためのものです。
調査では、その言葉がなぜその形で現れているのかまで理解する必要があります。